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広島高等裁判所松江支部 昭和29年(う)115号 判決 1954年12月13日

控訴人 被告人 秋風富雄

弁護人 原定夫

検察官 西向井忠実

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人原定夫の本件控訴趣意は別紙控訴趣意書記載のとおりであるからその主張するところに対し当裁判所は次のとおり判断する。

第一点について。所論にかんがみ本件訴訟記録及び原裁判所の取り調べた証拠を精査し弁護人所論の点を検討するに被告人は昭和二九年四月二〇日頃大田市久手町刺鹿嘉田時治方前道路上で遊んでいた子供数名(内一名は当時一四才三ケ月、他の数名は一二才二名、九才一名、八才二名その他)に対し同町魚見墓地内の大沢彦市郎所有の位牌堂から古銅板を窃つて来いと言つたこと、そこでその子供らは皆連れだつて右位牌堂に赴きその壁に張つてあつた古銅板を一人が数枚づつ剥ぎ取つてきたことを窺知することができる。即ち、右の場合右数名の子供らは同時に同所で同一の所有者所有の古銅板を剥ぎ取つて来たものであり、被告人はそれらの子供を使つて一個の窃盗罪を敢行したものと言うべく、たとえその子供らのうちに一人の責任能力を有する子供があつたとしても全体を包括的に観察して被告人に対して一個の窃盗罪を以て問擬するを相当とする。されば弁護人主張の相像的競合の一罪であるとの論旨には賛成し難いけれども、原審が責任能力者に対する関係においては窃盗教唆罪を以て問擬しその他の者に対する関係においては窃盗の一罪を以て問擬し両者を刑法第四五条前段の併合罪として処断したことは法律の適用を誤つたものであり且その誤りが判決に影響を及ぼすことが明かであるから原判決は破棄を免れない。

第二点について。所論にかんがみ本件訴訟記録によつて弁護人所論の点を検討するに、なる程本件犯罪は被害の面よりすれば重大とは言えないけれども純真なる児童を使つてなした犯行であること、被告人に前科ある点等を考えるときは原審刑は相当であつて再度の執行猶予の恩典を与えることはとうていできない。論旨は採用し難い。

よつて刑事訴訟法第三九七条を適用し原判決を破棄し同法第四〇〇条但し書により被告事件について当裁判所は次のとおり判決する。

被告人は昭和二九年四月二〇日頃大田市久手町魚見墓地内の大沢彦市郎所有の位牌堂において数名の子供(一四才三ケ月一名、一二才二名、九才一名、八才二名その他)を使用し古銅板約一貫百匁時価約四九〇円相当を窃取したものである。

右事実を認定する証拠は原判決挙示の証拠のとおり。

法律に照すと被告人の所為は刑法第二三五条に該当するから所定刑期範囲内で主文の刑を量定処断し、当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項を適用し被告人をして負担せしめる。よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 平井林 裁判官 藤間忠顕 裁判官 組原政男)

弁護人の控訴趣意

第一点原判決は判決に影響を及ぼすことが明らかなる事実の誤認があるか又は法令の適用に誤りがある。

本件の事実関係は証拠によれば被告人は昭和二十九年四月二十日頃原判示道路上に於て山田稔及いずれも刑事未成年者たる嘉田雅志外数名に対し判示位牌堂から古銅板を窃取するよう慫慂し因て同人らをして判示古銅板を窃取せしめたのが真相である(山田、嘉田、河上、花崎及被告人の司法警察員に対する各供述及被告人の検察官に対する供述調書参照)。然らば本件はたとえ刑事未成年者を利用した関係に於て間接正犯なりとする見解に従うも窃盗教唆と窃盗との想像的競合の一罪であつて併合罪たらしむべきではない。

第二点原判決は刑の量定が不当である。

一、本件は事案極めて軽微であり金額にしても五百円に満たない些細なものである。

二、被告人の家庭は父は両眼不具者母は病弱にして稼働できず被告人の収入によるのみにて辛じて生計を維持すると謂う憫諒すべき点があり若し被告人が収容されれば直ちに一家糊口に窮する状態である。

三、被告人は犯後深く反省悔悟し改悛の情も顕著であつて再犯の虞はない。

以上の理由により被告人に対しては更に刑の執行を猶予し更生の途を与えるを相当なりと思料する。

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